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Q-info 第188号 2023年8月発行 【読者訪問】

カテゴリー[コラム/Qinfo, 読者訪問]

読者訪問 第163回

お伺いした会社 株式会社カスタネット
お話を伺った方 代表取締役社長 植木 力 様
会社の所在地  〒601-8037 京都市南区東九条西河辺町33
電話番号    TEL 075-662-7200  FAX 075-662-7203
事業内容    事務用品、オフィス用品、防災用品などの開発・販売
HP      https://www.castanet.co.jp/

 今回は社会貢献活動と事業活動を積極的に推し進めておられる㈱カスタネットの植木社長を訪ねました。
カスタネットさんは2001年大日本スクリーン製造㈱(現:㈱SCREENホールディングス)の社内ベンチャー第1号として創業されました。当初は社内ベンチャーの第1号ということでマスコミにも取り上げられ順調なスタートを切ったのですが、ご祝儀的な注文が一段落すると売上は急激に下がり、社内ベンチャーとはいうもののスクリーンが資金的な支援をしてくれるわけでもなく、数年でご自身の預金や保険を解約して資金繰りに充てなければならないほどの状況に追い込まれました。

 そんな折、ふとした出会いがきっかけでカンボジアにいらない文房具を集めて送るということをはじめました。するとそのことがマスコミに取り上げられ、電話は鳴りやまなくなり、全国からボールペン、鉛筆、クレヨン、画用紙などが山のように届きました。

そうなると、『どうせオフィス用品を買うのなら社会貢献をしている企業から買って自社も社会の役に立とう』という空気が広がりどん底から業績を回復することができました。そのことで社会貢献とビジネスは両立できると確信されました。

社会貢献は“利益が出ていて余裕がある会社がやるもの”という先入観があったそうですが、赤字でどん底の会社でも社会貢献することによって他社との差別化ができ、世間の応援をいただいて追い風に乗れるとおっしゃいます。その後、カンボジアの小学校の建設に加わったり、障がい者のスポーツや各種活動を支援したり多くの社会貢献活動を行ってきておられます。
 「社会貢献をしている会社を応援したい、助けたい。同じ買うなら社会貢献している会社から買おう、という皆さんの思いが当社の利益を支えていただいています」とおっしゃっておられました。

 2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。植木社長は休みのたびに東北へボランティアに駆けつけ地震の被害を目の当たりにして『これから日本列島は地震が活動期に入るに違いない。オフィスに防災グッズは不可欠だ』との思いを強くし、防災関連の商品やサービスをまとめて“そなえる.com”(https://sonael.com/)として防災事業を立ち上げました。

何度も東北の被災地に通い、被災された人々から話を聞くうちに、防災用品として提供している様々のアイテムが本当に人々の役に立っているのだろうかという疑問が湧き、実態に即していないのに防災商品として既存の商品を仕入れて売るのはいかがなものかという思いに至りました。
そこでいくつかの試作品を作り東北大学の先生の助言ももらいながらビニール製のポンチョを商品化することになりました。
名付けて“マルチポンチョ”。

縦120cm、横100cmの袋状のビニール製のポンチョで、防寒や防水だけではなくこの中で着替えもできます。東北の避難所を回っていたときに女性から着替えができないという悩みをよく聞いたこともヒントになったそうです。
最初は「なんやこれ、黒いゴミ袋やん」という声もあったそうですが、2016年4月に起こった熊本大地震のとき、甚大な被害を受けた熊本県益城町にこのマルチポンチョを6,000枚寄付されました。そして現地に出向いてマルチポンチョがどのように使われているかを調査されました。
100人以上の人に聞いた結果、「これ使いました」とか「便利でした」「中が透けないので色が黒で良かった」などの声が聞けたそうです。

そしてこのマルチポンチョはさらに進化を続けます。コロナ禍において医療現場で感染防止用ガウンが不足していると聞き、マルチポンチョに腕を付ければガウンになると思い製造工場に発注。サンプルを京都府に持っていったらその場で7万着の注文をもらい、翌日NHKの取材を受けて『おはよう日本』で放送されるやいなや経産省から問い合わせがあり、国から50万着の注文をもらったそうです。その後も自治体や病院から注文が相次ぎました。
ガウンの不足は病院だけではなく障がい者施設も同様で、全国各地の障がい者施設に寄付されました。国や病院からの大量注文による利益はこうした無償提供などに使ったそうです。

 防災用品は提案型ビジネスだとおっしゃいます。被災地に行ってなにに困っているかを聞いて、グッズを開発したり新しい売り方を考えたりしているそうです。いま力を入れてるのは【my絆BOX】(https://nurie-box.com/)というもの。防災グッズを入れるボックスですが、他社はいろいろなものをパンパンに入れて売る。でも人によって要るもの要らないものは異なる。ならば、最低限のものだけを入れておいてあとは好きなものを入れてもらったらいいのではないか。ボックスも画一的なものではなく、塗り絵でもしてもらってそれぞれオリジナルな防災ボックスにしてもらう。そのことを通じて子や孫に防災意識を伝えていきたい。
その【My絆BOX】を通じて“防災意識を持ち歩く”という社会づくりをしていきたいとおっしゃっていました。

 小さな会社における「社会貢献とビジネスの両立」という課題にこれからも挑戦し続ける植木社長に拍手を送りながら同社をあとにしました。

(米田)